◆ この記事をおすすめする読者の皆様
● ジャムの法則とは何かを知りたい人
● お客さんが選択肢の数や提示方法にどのように反応しやすいかを知りたい人
営業マンはお客さんに購入対象の選択肢をいくつか提示して選んでもらいます。
お客さんに提示する選択肢の数は多いほど良いわけではありません。ジャムの法則を知っていると「選択肢の数とお客さんの購買行動の傾向」が分かるようになります。

選択肢は多ければ多いほど良いわけではないんだよ。多すぎる情報はお客さんを疲れさせてしまい、購買決定には至らないんだよ。
◆ この記事でわかること
● 選択肢は多すぎるとお客さんは購入を決定できなくなってしまう
● 適切な選択肢から「自分で選んだ」と思うことでお客さんは満足する
◆ この記事の結論
● 適切な数の選択肢を営業マンが提示することで購入率が上がる
● 選択肢の提示方法を工夫することで営業マンが売りたい商材の購入確率を上げることができる
ジャムの法則(決定回避の法則)とは何か?

検討できる選択肢の数が増えすぎると選択をするのが難しくなるという法則。決定回避の法則とも呼ばれる。
選択肢が増えすぎると決断できなくなるのは、十分に吟味できていない選択肢の中にもっと良いものがあるのではないか?と思うからです。
つまり、100種類の選択肢から1つを選ぶことは、99個の各選択肢に「この選択肢は選ばない」という決断をしていることと同じことになります。
すべての選択肢を検討する手間や時間がないときには、間違った選択による損失を避けたいと考える心理傾向が働き「何も選択しない(買わない)」という結論に行きつきます。
ジャムの法則に関する実験
ジャムの法則を行ったのはコロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授です。
シーナ・アイエンガー教授本人が実験の概要を説明している動画があるのでよかったら見てみてください(1分程度の英語スピーチです)。
試食用のジャムを6個準備すると購入率は30%だったが、24個準備すると購入率が3%に低下しています。
選択肢が24種類あるときには「23個のジャムの中にもっとおいしいジャムがあったらどうしよう?」と買った後で後悔することを避けたいと思うようになり、その結果、1つを選ぶことができなくなってしまいます。
一方で選択肢が6種類のジャムだけなら「すべてを試食して、一番好きな種類を選ぶ」ことはそれほど難しい行動ではないため、購入してくれた試食客が30%いました。
この実験から「選択肢が多くなりすぎるとすべての選択肢を検討することができなくなる」ため購入の決心が固まりにくくなると考えられています。
また、「24個のジャムを並べておいた方が人目を引くのでたくさんの人が集まってきたんじゃないの?」と思う方もいると思います。この実験では立ち止まった人の割合を調査しており6個の場合は40%、24個の場合は60%と試食後の購入率の違いほどは大きな差はありませんでした。
試食サンプル数 | 立ち止まって試食した割合 | 試食後に購入した割合 | 購買率 |
6種類 | 40% | 30% | 12% |
24種類 | 60% | 3% | 1.8% |

数多くの選択肢から1つを選ぶときには、1つの選択肢を選ぶと同時に「多くの選択肢を選ばない」ことに大きな決断力を使っているんだよ。
「決断疲れ」はパフォーマンスを低下させる原因になる
人が決断をしたがらない理由は、決断するのにはエネルギーが必要で疲れてしまうからです。ケンブリッジ大学のBarbara Sahakan教授によると人は1日に3万5千回もの決断をしています。
運動し続けると身体が疲労するのと同じように決断し続けると脳も動きが鈍くなり、決断の質が低下します。この現象は「決断疲れ」と呼ばれています。
決断疲れを避けるには決断する機会を減らすことが効果的です。
APPLEのスティーブ・ジョブズやFacebookのマーク・ザッカーバーグがいつも同じ服を着ているのは、意識的に決断疲れをを避けていると考えられます。
営業マンはお客さんが「決断疲れ」をしなくてすむように交渉を組み立てる必要があります。
ジャムの法則と一緒に知っておくべき心理傾向
ジャムの法則は提示する選択肢の数に関する心理傾向です。ジャムの法則と同じように選択肢に関連する営業に役立つ心理効果が2つあるので紹介します。
ゴルディロックス効果(松竹梅の法則)
3段階の選択肢があるときには真ん中が選択されやすいとする心理効果。それぞれが選択される確率は上から順に 20%、50%、30%になる 。
童話の主人公の少女ゴルディロックスがクマの家に迷い込み、3つあるスープの中から熱くも冷たくもない真ん中のスープを飲み干し、3つあるベッドの中から硬すぎず、柔らかすぎないちょうどよいベッドを選んで寝る…という話が由来。松竹梅の法則とも呼ばれる。
商談では価格を基準にした選択肢をお客さんに選んでもらうケースが頻繁に生じます。価格帯を選ぶときの心理傾向を知っておくことは営業マンの役に立ちます。
たとえば、パソコンの購入を検討するときに価格が次のような場合はどれを選択するでしょうか?
選択肢パターン1
● 高性能パソコン A 300,000円
● 標準的パソコン B 150,000円
● 廉価版パソコン C 75,000円
このように価格の選択肢が3つのときには約50%の人が真ん中の選択肢を選ぶことが知られており、ゴルディロックス効果(松竹梅の法則)と呼ばれています。
約50%のお客さんは真ん中の選択肢を選ぶので営業マンが買ってほしい商材を真ん中に置いた選択肢を準備すると期待通りの売り上げが上げやすくなります。
上の例では選択肢のパターンを次のように変更すると購入される可能性に変化が起こり、高性能パソコンAが選ばれる可能性は選択肢パターン1より高くなります。
選択肢パターン2
● 最高級パソコン S 450,000円
● 高性能パソコン A 300,000円
● 標準的パソコン B 150,000円
アンカリング効果
交渉の提案者が何らかの数値(アンカー)を先行して提示した際に、交渉相手の判断基準がゆがめられ最終的な妥結額がアンカーに近づく心理傾向のこと。
同じ選択肢でも提示する順番で印象が異なります。
特にお客さんに適正価格の相場感がない場合には最初に提示された製品の値段を基準として高い安いの判断をするようになります。
この心理傾向をアンカリング効果と呼びます。
例えば次のように廉価版パソコンCを最初に提示すると相場感がないお客さんは「パソコンは7~8万円が相場」とアンカリング効果が起こり、それ以降の選択肢に対して「高い!!」との印象を持つ傾向があります。
選択肢パターン1-2
● 廉価版パソコン C 75,000円
● 標準的パソコン B 150,000円
● 高性能パソコン A 300,000円
アンカリング効果はこちらの記事で詳しく解説しているのであわせて読んでください。
ジャムの法則を営業で活用するコツ

ジャムの法則を営業で活用する次のようなコツがあります。
- お客さんの心に負担をかけない数の選択肢を準備する
- 選択肢をカテゴリーに分けて、絞り込みができるように提案する
- 3段階の真ん中を選びやすい心理傾向があることを理解しておく
お客さんの心に負担をかけない数の選択肢を準備する
お客さんは選択肢が多くあり過ぎると「選ばない選択肢を決める」ことが心理的な負担になり、決められなくなります。これがジャムの法則と呼ばれる心理傾向です。
「選択肢が多いと混乱するなら選択肢を1~2個にしてしまえばいいんじゃないの?」と思うかもしれませんが、もちろんこれは逆効果です。
選択肢が少なくなりすぎるとお客さんは「自分の意思で選択した」と思ってくれなくなります。
さらに「本当はもっといい選択肢があるけど隠してるんじゃないの?」と別の形の心理的負担をお客さんにかけることになります。
お客さんに心理的負担をかけない選択肢の数はお客さんの性格や扱う商材、状況毎によって異なるため一概に正解があるわけではありませんが、人が短期記憶で覚えていられる情報は3~5個であるとする「マジカルナンバー」は目安としては有効な数字になります。
30秒程度の短時間の間だけ覚えていられる情報の数のことで4±1とするネルソン・コーワンの説(2001年)が定説となっている。
お客さんに選択肢を提示するときには3~5個の項目を目安にすると良いでしょう。
選択肢をカテゴリーに分けて、絞り込みができるように提案する

もともとの選択肢が多いケースでは営業マンの側で3~5個の選択肢に絞って提案することが難しいときがあります。
このように選択肢が多いケースでは「3~5個のカテゴリーを選択肢として提案することを繰り返す」ことで選択肢から絞り込みができるように交渉すると良い結果が期待できます。
つまり商談の中でお客さんが重視する項目を把握して、その項目を比較の軸とした選択肢をお客さんに提示して選んでもらうようにします。
たとえば、こんなケースです。
- OSはMacかWindowsにするか?
- ノート型かデスクトップ型(ミニタワー、ミドルタワー、フルタワー)にするか?
- 主な使用目的はビジネスか?ゲームか?インターネットか?
- メーカーにこだわりはあるのか?
- 価格帯はどのくらいにするのか?(下記参照)
このようにカテゴリーとしての選択肢を絞っていってもらえば、多数ある選択肢の中から本当に吟味すべき選択肢を選んで検討してもらいやすくなり、購買決定をしてもらいやすくなります。
3段階の真ん中を選びやすい心理傾向があることを理解しておく
ゴルディロックス効果(松竹梅の法則)をジャムの法則と組み合わせて利用します。
値段や性能など数値化できるものを選択するときには真ん中の選択肢が選ばれる傾向にあることを利用して、買ってもらいたい商品が真ん中に来るような選択肢を準備するようにします。
おすすめの一冊
ジャムの法則について詳しく知りたい場合は「選択の科学」(シーナ・アイエンガー、文藝春秋)を読むことをおすすめします。
著者のシーナ・アイエンガーは「選択」に関して多くの実験、調査、研究を20年以上にわたって行っており、本書にはその成果が多くまとめられています。
ビジネスに限らず人生では数多くの分かれ道があり、人はその岐路に立つたびに選択を迫られています。
本書を読むことで商談の際にお客さんの心理がどのように動いているのか?や何を迷っているのか?を推測し葛藤を理解するコツを身に着けることができます。
営業マンが知っておくべき心理学だけをまとめた心理学の本「〔買わせる〕の心理学*消費者の心を動かすデザインの技法61」(中村 和正、エムディエヌコーポレーション)は広く浅く辞書的に使うことができるのであわせておススメします!
まとめ
お客さんは自分の判断で選択をしたいと思う反面、選択肢が多くなりすぎると選ぶことができなくなるという矛盾を抱えています。
営業マンはお客さんが満足した選択をしたうえで、購入を決定できるように選択肢を提示するときに工夫をする必要があります。
- お客さんの心に負担をかけない数の選択肢を準備する
- 選択肢をカテゴリーに分けて、絞り込みができるように提案する
- 3段階の真ん中を選びやすい心理傾向や最初に聞いた値段を基準に考える傾向があることを理解しておく
これらのことを意識して選択肢を提示すれば、お客さんの満足を得やすくなります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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他の営業場面で本当に使える心理学もあわせてお読みください。
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