◆この記事をおすすめする読者の皆様
● お客さんはどんな商品を欲しがっているんだろう?と思う人
● お客さんに「欲しい」と思ってもらえる商品紹介ってどんなのだろう?と思う人
お客さんによく買ってもらえる優秀な営業マンと並みの営業マンの差は製品知識やトーク技術が原因ではありません。お客さんが「欲しい」と思えるものを紹介できているかの違いですが、お客さんに「欲しい」と思ってもらうのは一筋縄ではいきません。

営業一筋20年のヨシゴマがお客さんの「欲しい」を引き出すコツを紹介するよ!
◆ この記事でわかること
● お客さんが欲しいのは改善
● お客さんの「欲しい」を引き出すために営業マンがすべきこと
◆ この記事の結論
お客さんは商品を通じた改善を買っている

お客さんが営業マンから買っているものは商品そのものではありません。
お客さんが営業マンから買っているものは、商品を通して得られる「改善」です。このことは営業マンがお客さんに商品を提案するときにとても大切なことなので忘れないでください。
お客さんが「本当は何を買っているのか?」に関する有名なマーケティングの格言があるので紹介します。
ドリルを買いに来たお客様は、ドリルが欲しいのではなく穴が欲しいのである
マーケティング発想法 レビット博士
つまり、お客さんがお金を払って本当に買っているのは商品(ドリル)ではなく、商品(ドリル)を通じて得られる「改善」(穴)になります。
レビット博士が「マーケティング発想法」でこの格言を紹介したのは1968年のことですが、それ以前から現在に至るまでお客さんは「改善」を求めてお金を払っています。
生活を改善したいと思う人は、裏を返せば現状に不満や不便を感じています。営業マンの仕事はお客さんが持っている不安や不便を解決できる提案をすることです。

今も昔もお客さんは商品を通じて得られる「改善」にお金を払っているんだよ
お客さんの興味があるのは製品の特徴ではない

お客さんがお金を払っているのは自分が得る「改善」です。営業マンが売っている商品の特徴ではありません。
新人の営業マンは商品の特徴がお客さんが手に入れる「改善」だと誤解をして、商品の特徴の説明ばかりを一生懸命にしてしまうことがあります。
商品の特徴はお客さんが手に入れる「改善」につながる可能性はありますが、お客さんが欲しい「改善」そのものではありません。
つまり「お客さんが手に入れる『改善』」と「商品の特徴」がつながっていると思ってもらえないと商品の説明をしても時間の無駄になるだけです。どんなに完璧に製品を紹介してもお客さんは欲しいとは思ってくれません。
なお、お客さんから受ける反論を分析すると営業マンがどのような売り込みをしているのかがわかります。
価格の心配をされる⇒商品の特徴の説明に偏りすぎた売り込みをしていることが多い
提案に反論される⇒商品がもたらす「改善」をお客さんが重視していないことが多い
お客さんが提案に納得してくれない場合は売り込みに偏りがないかを確認してみることが必要になります。

お客さんの興味は自分が感じている不安や不便を改善することにあるんだよ
部分最適の積み上げが最適解ではない
お客さんが抱えている問題にはいろいろな方面から改善案を提案できますが、細かい場面に切り分けた最適解の積み上げが最終的な最適解になるわけではありません。
どの方面から見ても合理的な解決策はお客さんの理解を得やすいもののインパクトに欠けるため、納得を得られないケースがあります。
ここで平均値を使った有名なパラドックスを紹介します。
下の表は2人の野球選手の1995年と1996年の打率を示しています。
どちらの年もジャスティン選手の方が打率が高いため2年間の平均打率も高くなりそうですが、実際には2年間の平均打率はジーター選手の方が高くなります。

データは一部分を切り取って見るか、全体を見るかで結論が異なることがあります。
営業マンがお客さんに提案をするときにも部分的な視点と全体的な視点の両方を持つことが必要になります。そして、切り取った各場面の「最適解」の合計が全体的な「最適解」ではではないことを忘れないでおくことです。
部分的な不合理性を含んだ最適解の実例

部分的な最適解の積み上げが全体的な最適解ではない例はスターバックスコーヒーの事例があります。スターバックスコーヒーは部分的には次のような一見すると非合理的な選択をしています。
- フランチャイズ方式ではなく直営店方式で店舗を展開している
- 他のコーヒーショップより時間をかけてコーヒーを淹れる
スターバックスは下に示す通りフランチャイズ方式を取り入れずに直営店方式で店舗展開をしています。
店名 | 直営店 | フランチャイズ | 備考 |
スターバックスコーヒー | 1530 | 0 | 2019年12月末現在 |
ドトールコーヒー | 194 | 897 | 2020年7月末現在 |
コメダ珈琲 | 13 | 822 | 2019年1月現在 |
直営店方式は店舗拡大のスピードがフランチャイズ方式よりも圧倒的に遅くなるため、スターバックスコーヒーが日本に出店を開始したときには直営店方式は非合理的な選択としてとらえられました。
また、スターバックスコーヒーでは何人かのスタッフの手を渡って、時間をかけてコーヒーが淹れられます。
これらの選択は一見すると非合理的に見えます。しかし、スターバックスコーヒーはこの戦略だからこそ提供できる価値をお客さんに提供しています。
スターバックスコーヒーが提供している価値は「サードプレイス(Third Place)」として知られている居心地の良い空間です。
ペーパーカップやタンブラーを手に街を歩くスタイルや、家でも職場でもない「サードプレイス」の提案など、時代ごとの空気をつぶさに感じ取りながら、新たな価値を生み出し、文化を育んできました。
スターバックスコーヒー 会社案内
スターバックスは他のコーヒーショップと同じようにコーヒーを提供していますが、「サードプレイス(Third Place)」も一緒に提供をしています。
サードプレイスは直営店方式でないと提供するのが困難です。フランチャイズ方式ではどうしてもお客さんの回転数を上げて目先の収益を優先してしまうためです。また、コーヒーをゆっくり淹れるのも時間に余裕があり、スターバックスが意図するような過ごし方を集めるのに役立っています。
結果として、スターバックスはコーヒーを飲みながら読書などを楽しみたい人から熱烈な支持を得るようになっています。
このように、1部だけを切るとると魅力を感じない事柄も、視点をかえて全体的な視点から考えるとお客さんから強く支持を集めることができることがあります。
「部分」と「全体」をストーリーでつなぐ

非合理的な選択を含む提案をお客さんに納得してもらうためには、提案の全体像を正しく理解してもらう必要があります。そして、全体像の理解をしてもらうにはストーリーとしてお客さんに伝えることが有効です。
売れる営業マンはお客さんへの提案の全体像を高い視点から考えています。高い視点から考えているからこそ、お客さんを引き付ける非合理な選択を含みつつも全体的には納得しやすい提案ができています。
営業マンの提案において視点のレベルの違いはとても大きな差を生みます。
視点のレベルの違いは製品知識やトーク技術でどんなに覆そうとしても逆転できないくらいの差になっています。いわゆる「戦術のミスを戦略で取り返すことはできるが、その逆はできない」のと同じです。
視点のレベルが高いストーリーを作るためにもっとも大切なのは「お客さんに貢献したい」という思いを強く持っていることです。この思いがあると筋の良いアイデアがわきやすくなってきます。
また、どんな提案がお客さんの生活を改善できるのか?を考え抜いておくことも必要です。考えるのは次のような「なぜ」です。
- なぜそのお客さんは商品やサービスに食いつくのか?
- なぜそのお客さんは喜んでくれるのか?
- なぜそのお客さんは喜びが持続するのか?
- なぜそのお客さんは継続的にお金を払ってくれるのか?
お客さん目線で考えておき勝ちパターンを作っておくことは大切です。さらに経験を積めば、自分の勝ちパターンを押し付けるのではなく、お客さんのニーズに合わせて臨機応変に対応するようになりさらに視点の高いストーリーが作れるようになります。
いずれももっとも根底にあるのはお客さんの心理を読んで、役に立ちたという思いです。
顧客心理を読むことの大切さはこちらで解説しているのであわせて読んでください
おすすめの一冊 ~ストーリーとしての競争戦略
営利企業がどのようにしてお客さんに価値を提案するのか?というとても広範なテーマをまとめた書籍に「ストーリーとしての競争戦略」(楠木 健、東洋経済)があります。
総ページ数が500ページを超える作品で読むのに苦労をする人も多いとは思いますが、「コンセプト」の設定など営業マンが読んでも参考になることが多く書かれています。興味がある部分を拾い読む読み方でも十分勉強になる一冊です。
ビジネスの戦略論に興味がある方にとってはじっくりと腰を据えて読む価値のある本ですので、手に取って読んでみることをおすすめします。
まとめ
お客さんが商品の購入を決断する際に大切にしていることと、それに対して営業マンがどう対応できるのかを解説しました。
- お客さんは営業から商品を通じて得られる「改善」にお金を払っている
- お客さんは商品の特徴そのものには興味はない
- 非合理的な部分があっても、納得できるストーリーで全体像を伝えるとお客さんのココロに届きやすい
お客さんのために考えることが営業マンのもっとも大切なマインドです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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